85ミリの愛

煙草を吸った。2ヶ月振りだった。

記憶の奥底に眠っていた独特な苦味を噛み締める。

思い出す人はいつだって同じだ。

戯れのシガーキス、恋愛の真似事みたいな甘美な共依存は、

いつの間にかこんなにも苦くなってしまった。

もう戻れない、否、戻ることも無いけれど、

火を灯し、紫煙を燻らせて短い命を奪うその間だけ、

貴方に想いを馳せてしまう。

哀しみに覆われて朧げになってしまった倖せを、拾い集めて抱き締めたくなる。

そんな事をしたって、何も変わりはしないのに。変えられやしないのに。

けれど、そうさせたのはきっと私だったから、

濡れた睫毛は吐き出した煙の所為にして、

想いごと掻き消すように灰皿へと押し付けた。

またね、はもう言わないよ。だから、さようなら。