ただ、穏やかな日々を送りたいだけだった。

 横になって膝を丸めて、ゆりかごみたいに身体を揺らす。心なしか落ち着くような気がしているけれど、きっとそれは幻想だ。泣くことすらも儘ならない、苦い顔で笑うことだけが得意になっていく。本当はもっと、清らかでありたかった。何も知らずに柔く微笑むような、そんな人になりたかった。何だって知らなければ無いのと同じだから、感情を理性で殴って、殴って殴って、朦朧とさせればいい。そう思っていた。けれど心は精巧だから、どれだけ麻痺させたって、総てを忘れ去ることなんてできない。詰られたあの日も、絶望したあの瞬間も、どれだけ靄が掛かっていても、無かったことにはできなかった。できなかったよ。

 だからせめて、その感情たちを心の奥底へ、陽の光が届かない深海へ、沈めればいいと思った。それで大丈夫だと思っていた。思いたかった。

 けれど、どす黒く変色した感情たちは今も、昏い海の底で愛されたいと叫び続けている。